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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)182号 判決

主文

原判決を破毀する。

本件を廣島高等裁判所に差戻す。

理由

辯護人高橋武夫同小山胖の各上告趣意は別紙添附の書面記載のとおりである。

辯護人高橋武夫の上告趣意第一點、同小山胖の上告趣意第二點について。

記録を調べてみると、原判決が証據として引用した所論の盜難届は被害者株式會社下松造船所專務取締役渡辺栄太郎届出人石川敏雄と表示された盜難届をさすものであることは原判決並びに右盜難届の記載内容から窺われるが、この届書については所論のごとく原審の公判で証據調べの行われなかったことは公判調書の記載によって明かである。また、原判決は第一審公判調書中の「被告人の公判請求書記載の犯罪事実は其の通り相違ない」旨の供述記載を証據に引用しながら、原審公判では右公判請求書記載の犯罪事実を被告人に讀み聞かせていないことも公判調書の記載から明かである。公判で証據調べの行われなかった盜難届を証據に引用することの違法であることはいうまでもない。また公判請求書記載の犯罪事実を讀み聞かせなければ第一審公判調書中にある公判請求書記載の犯罪事実を認めた被告人の供述の内容が不明であるので、かかる公判調書については適法な証據調べがなされたこととならず、從ってこれを証據に引用することの違法であることもいうを待たない。しかるに、原判決は以上のごとく適法な証據調べを缺く前記盜難届及び第一審公判調書を証據に引用して原判示事実を認定したのであるから、原判決はこの點において破毀を免かれない。

よって、その他の論点に對する判斷はこれを省略して刑事訴訟法第四百四十七條第四百四十八條ノ二第一項により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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